昔の映画について
昔の日本の映画,国外から異常に高く評価されてて,かつて日本の文化みたいなのがこれほどまでに世界中から賞賛されたことがあったのだろうかっていうくらいで,やっぱり異常な雰囲気がある,異常な雰囲気があるけど,実際にみてみると異常におもしろくて,色あせてないし,すごい感じがする,終戦直後か らテレビの普及するまでの時代.
このまえツイッターで,『ブレードランナー』は最高っていう話があって,ブレードランナーには明らかに小津安二郎の『東京物語』の影があるっていう感じで,なるほどって思った.
あの頃の日本の映画,そのほとんどが『人間はそのうち必ず死ぬ』っていうのが,強く強く意識されている気がする.小津安二郎の映画を「ものがなくなっていく 映画」と評した人がいたらしいけど,いわば,あの頃の映画は「いのちがなくなっていく映画」かもしれない.本編中で主要人物が死亡しなくても,その人物が そのあと,いつかかならず死ぬっていうのが,強く意識されている気がする.直接的には,人間の死みたいなのが,まったくとりあげられない作品でも,人間は そのうち必ず死ぬっていうのが,前提として強く理解されている気がする.人間はそのうちかならず死ぬことの,不条理っぽさみたいなのが,強く根をはってる 感じ.映画なんて,所詮は文学と同じで,商業上の金儲けエンターテイメントだろうけど,それでも,本質を普遍的に表現してるなッっていう瞬間があって,ブ レードランナーのあのシーンとかがそうで,あの頃の日本の映画はそういうのが強かった気がする.別の言い方をすると,映画を見るとき,「この登場人物はそのうち必ず死ぬんだよな」っていう見方をすると,作品全体の理解が深まる気がする.
2000年代以降くらいの,人が死んで泣くみたいな,命の大切さとかを実感しました!!!みたいなのとは根本的に話が違う,ああいうのは,『人間はなんだかんだで死なない』っていうのを前提としていて,反対で,すごく成熟した,情報社会の映画だと思う.
人間はそのうち必ず死ぬっていうの,1940年代の日本社会は,世界の先進国のなかで最も端的にそれを実感したやつだと思う.戦時中だけで,4人に1人が肉 親を失ってるらしいので,そこら辺の誰かが必ず近年に死んでる状態だった.人間はそのうち必ず死ぬよねっていう,誰でも知ってるけど,理解するのに,膨大な時間と経験を有すると思われる,人間の本質みたいなの,終戦直後から高度成長期にかけての日本は,それに対する理解が深かったというか,否応なしに理解させられたというか,あるいは,人間はそのうち必ず死ぬよねっていうのが,戦後しばらくは日本社会の空気に濃く残存していたんじゃないかなっていう気がす る.
そういう,先進国の社会として稀にみる,社会に蔓延した透明な死の影みたいなのが,あの頃の映画の説得力というか,深さというか,うまくいえないけど,まあ,よさ,に反映しているように,最近,白黒の画面をみながら,思う.