翔んで埼玉の件

あんまネタバレではないと思います。

けものフレンズ」の話します
  • 翔んで埼玉、はじめの方のシーンで、両親と車で埼玉県内を移動中の埼玉の若者が無限に広がる田畑をバックに「埼玉には何もない!!!」みたいなこと絶叫するシーンがあるんですけど、
  • おかしくない?? いや、あるじゃん、田畑が………お前……
  • たしか「けものフレンズ」で、砂漠にきた時に「砂がたくさんある」っていうセリフあったじゃん、あれすごいいいセリフだよね。
何がないのか
  • 「何もない」というときって、名所名跡とか、華やかに買い物できるとこの話しかしなくないですか?
  • 「何もない」は「消費に値する場所が何もない」ということを意味してる。
  • じゃあなんで埼玉には「何もない」のか?
  • それは埼玉が消費の空間ではなく、生産の空間だからだよ
  • 生産の空間だから、田畑という「食料エネルギーの生産空間」がたくさんあるんだろが!生産の空間だから、埼玉で生まれ育ったんだろうが!「人口の生産空間」なんだよ、あと埼玉って工場もたくさんあんだろ!生産の空間だからだよ!!気合い入れろボケが。
  • いきなしデカい声出してすいません。
  • 埼玉には、たとえば「東京という大消費地の近くで新鮮に作物を輸送でき、かつ一定程度大規模な耕作が可能な農村空間」がたくさんあるだろが、「人並みの経済水準でも無理なく子どもを産んで育て上げることができる暮らしやすさ」があるだろが。クレヨンしんちゃんを全巻読め。
世界都市論
  • ちなみに東京は世界都市とかグローバルシティといわれていて、80年代にフリードマンやサッセンとかが、ロンドンとニューヨークと並べて東京をグローバルシティと位置付けたんだよね
  • でも近年の東京は生産ではなく消費しかできない場所になりつつある、という指摘もなされるようになってきていて、東京をグローバルシティと無批判に考えるのは無理があるのではないかということになっているよ
  • まあ世界都市論が日本経済絶好調の80年代に出てきたから仕方ない的な。サッセンとかは自説の誤りを認めた方がいいよ。
  • つまり、東京は消費の空間になってしまっているからこそ、「何でもある」のだと見なされてるんだってことだよね、虚しい空間である。(何が言いたいのかわかんなくなってきた)
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スパイシーな香り
  • 翔んで埼玉では、序盤でGACKTが全校生徒のまえで都会指数?のテストを受けさせられるんだけど、あれ格付け?の番組のオマージュでかなりよくないですか?
  • それでどんなテストかっていうと、都内のいろんな街で採取した「空気」の匂いを嗅いで、それがどの街のものかを当てるんです。東京のことをよく知ってれば分かるだろうっていうやつなんですね、銀座の空気とかが出てきた
  • そんでGACKTは、銀座とかが出てくる2問目までは順調だけど、最後の3問目で悩むんだよね。「なんだこのスパイシーな香りは…?」って困惑するの。都会指数が高いほかの学生たちもみんなわかんないけど、GACKTは悩んだ末、それが「西葛西」の空気だって当てて、ウオーッてなるの
  • ちなみにそんとき筆者は、「スパイシーな香り」の一言だけで西葛西だってわかりました。つうかこんなん常識なんじゃないの?(調子にのっている)
コリアタウンといえばどこですか?
  • このシーン、状況としてウケるのは、都会指数が高いとされる人たちが西葛西のことも知らんということ
  • 西葛西にインド人コミュニティがあることも知らない無知で、よく「都会人」を自負できるよなという、、、
  • たとえば、作中の都会指数が高い人たちに、「コリアタウンといえばどこですか?」って聞いたら、全員が大久保としか答えなさそう
  • じゃあ大久保ってなぜコリアタウンなのか知ってる?
  • いいですか大久保っていうのはね、前回の東京五輪前の建設ラッシュ時に全国から集まった日雇い労働者の街で(ハローワークが近くにあるのとインナーシティだったから)、それが五輪後の景気空白で労働者たちが去った後に、政治情勢が安定化してきた国々からアジア系移民が流入してきたのが、移民の街になったきっかけです
  • でね、2000年あたりまでの大久保っていうのは、だいたい半分弱くらいは中国人街でもあったんですね、そして韓国人街もあったんだけど、それは大久保の東側の若松とか榎っていう地域が中心だったの。おわかり?
  • ちなみにいまも駅の西側は多国籍だよ。
  • その頃住んでた韓国人たちは韓国企業日本支社の駐在員とかが中心で、いまのリトル明洞みたいな街の住民層とはちがうんです。お店も観光客向けではなくて地元の韓国人向け、本屋とか不動産屋とか床屋とか。いまみたく日本人向け飲食店とかコスメ店とかに変わったのは冬ソナ後と日韓ワールドカップ後です。
  • つまり大久保は戦後しかも80年代くらいから流入してきたニューカマー、あるいは2000年代以降に入ってきたニューニューカマーの韓国人の街である。
  • でも知られている通り、日本には戦前から韓国人(朝鮮人)が多い。大阪だけではなくて東京にも多い。東京の代表例は三河島ですね
  • 三河島コリアタウンだって知ってた?もはやニューニューカマーの韓国人たちすら知らないらしいよ。 
  • なんで突然コリアタウンの話してんだ大丈夫か?
無知な「都会人」
  • 何が言いたいかというと、地域の知識(地誌的知識)ってキリがないんだけどさ、たとえばコリアタウンにまつわるそんなこととかも知らないのに、単に「東京で生まれた」という偶発的な身体的事実のみを前提として「都会人」みたいな扱われ方がされることがあるじゃん、あれに俺はウケている。自由が丘で生まれたら都会人なんですか?
  • 「スパイシーな香り」のシーンでは、そういう、「東京」のごく一部の点の表層しか知らない人間たちが「東京人」を自負していることのおかしさ、それは世の中で生きていて非常にしばしば見られるおかしさであり、それが戯曲めかして演出されていて、良いんだよな、、、、、、あのシーン、、、抱いて、、、、
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地域概念の多様性
  • 本作、千葉と埼玉がどっちが上かっていがみ合ってるみたいな展開なんだけど、あれも世の中でよくあるけど変だよなって感じ
  • いいですか? すべての地域は、地域どうしが有機的に結びついて、お互いに機能を補いあって成立しているんです。
  • だから、たとえば東京と埼玉と千葉で、どれがいちばん優れているか、みたいな序列をつけようとするのはマジで無意味。「千葉と埼玉どっちが栄えてる?」みたいなの、みるたびに怒りを覚える。
  • 地域は単独で成立しない。地域は相互依存のネットワークとして理解すべきものです。東京にはいろんなものが売ってるけど、そのほぼすべてが東京で作られていない。東京の消費生活は、東京以外の無数の地域での生産に依存しており、反対に、無数の地域の産業生産は、東京での旺盛な消費需要に依存している。
  • 地域に優劣をつける奴は「地域」概念についてあまりにも無知である。
等質地域と機能地域
  • 地域には2つの見方があって、「農村」とか「ビル街」とか、視覚的に同質的な空間が広がっているものを地域と呼ぶ「等質地域uniform region」と、視覚的には等質的でなくても、ある機能の成立のために有機的に結合している一定程度の範囲の空間を呼ぶ「機能地域functional region」とがある。たとえば「通勤圏」とかは、ある種の経済機能を成立させる機能地域として理解できる。まあ他にも色々あんだけどさ
  • 地域っていうと、ほとんどの人は、空間を等質地域として見て、かつ、そのなかの、ごく一部の点しか見てない(たとえば多くの人にとって「渋谷」はすごく狭い空間範囲であろう)
優劣やばい
  • 機能地域的な見方ができたら、地域に優劣なんて決してつけられないはず。
  • つうか優劣やばくない?地域っていうのは、そこにいる人たちが作るものだぞ、すなわち地域に優劣をつけることは、人たちに優劣をつけることを意味する。ポリティカリーコレクトネスじゃん、いまSNS(?)とかだとポリテなんとかに準拠してないこと書くと怒られるからそういうのやめた方がいいよ。ポリなんとかはアカシックレコードに書いてあるよ。
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大学入試
  • ところで業界の人は知ってるんですけど、文科省のせいで大都市圏の大学は定員抑制がキツくなってて、入りにくくなってます、特に東京ね
  • それはすなわち、東京の大学の入試難度が一律で難しくなることを意味しますよね。
地方創生
  • そんな事態になってる理由の一つは東京一極集中の是正なんですけど、日本はもう一つ、人口減少という、実質的に解決不可能な難題を抱えています。でも日本政府はそれをどちらも机上では解決できる妙案を思いついた。
  • それは、都道府県別の合計特殊出生率をみると、巨大人口を抱える東京が飛び抜けて低くて、他方で人口の少ない地方圏では比較的高い、という事実を利用して(実際に地方都市の方が子育てはしやすい)、そんなら若い世代には地方に行ってもらえば、人口減少も東京一極集中も抑制できるだろっていう考えで、その一連の政策パッケージの名前が、地方創生です。
  • 都内の大学に入りにくくすれば別の場所に行かざるを得なくなるよね。
マンション高すぎ問題
  • ただし同時に日本政府はある程度の経済水準も維持したいので、東京には引き続き「優秀な人材」には流入してほしいと考えている
  • それはすなわち、東京に住める人間とそうでない人間とが今後どんどん分極化していくことを意味する。
  • マジこういう事態になると「努力して高い能力を発揮した人間がいい思いをするのは当然」って言い出す人間がソーシャルメディア(???)に出現してきて俺は頭を抱えてんだよそのレベルかよって
  • つうか新年度で都内に引っ越してきた人いると思うけど、ウケ狙いみたいなショボい部屋でも家賃高いじゃん、分譲マンションもウケ狙いみたいに高い。
  • 単に高いだけならいいけど、「このマンション作った人って家に住んだことないっしょ?」っていう感想しか出てこないマンションしかなくてクソ高いのはかなり笑える。以前文京区でマンション探したときマジそんな感じだった。みんな居住空間ではなく投機対象になってる。
  • このまえ修士の時に同期だった中国人に会ったら「君はとっとと23区内の駅から5分の古くないマンション買って家賃13万で貸し出せ」って繰り返し主張された。
  • 金の話やめろ。
  • つまり東京に住める人間と住めない人間との乖離が社会の様々な位相で進んでいるわけです。「一旗あげるために上京」なんて昭和の世界ですよ。令和では「一旗あがってない奴は上京不可能」です。
翔んで埼玉のリアリティ
  • まあマンションの件はおいといても、こうした東京一極集中と人口減少の抑制を目標とした、いかにもポストモダニティ(環境による人間制御)な居住地域選別の圧力は当面は多面的につづくので、それは経済格差の空間的再生産の装置化に他ならない。それって、東京の人間とそうでない人間との絶対的乖離が進む、翔んで埼玉の世界だよね
  • 翔んで埼玉では、東京以外で生まれた人間が東京に入るには「手形」が必要になる。では、これからの日本で、いやいまの日本で、東京に入るため(つまり例えば、都内で働いたりするため)の「手形」ってなんだろうね??????????(知るか)
クソ長くなってきたんで終わります
  • クソとか言わない方がいいと思う。
  • そういやあまりに自明だったんで書き忘れたけど、筆者は埼玉生まれ埼玉育ちです、映画は超よかったよ
  • いいたいのはさ、地誌的知識とか地域概念とか格差の空間的再生産とか、そういうのロクに知りもしないで、単に「東京で生まれた(あるいは、東京で生まれなかった)」という身体的事実だけを以って何がしかを判断しようとする昨今の趨勢に違和感を覚える
  • 既存の社会秩序が溶解する中で、人々は世界を認識する枠組みを失い、結果として自分の身体感覚(どう思ったか)や、身体的特質(どんな肉体をしてるか)、身体的事実(どこで生まれたかとか)、など、身体に結局依拠せざるを得ないというのはポストモダニティにおけるひとつの理にして隘路であろう。
  • ごめん全然関係ないけど「筋肉は裏切らない」ってかなりポストモダニティだよね、ふつうに裏切ると思いますが…